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今日は、私が外部出演することが決まった公演のチラシを渡したいから……という名目で呼び出してある。
私達は待ち合わせ場所に程近いカフェに入った。
日曜日の昼間ということもあって、店内はカップルや女性客で賑わっている。
「稽古、始まってるんですよね?……どうですか?」
彼は、私が差し出したチラシを見ながら、コーヒーを一口飲んだ。
「台本は有名な劇団の作品だから、間違いはないけど、演者は個性的な人が多いからなぁ……。まとまるのかな?って感じ。」
なんて、平静を装っていても、どのタイミングで話を切り出すか……そればかりが気になって、せっかく会えたというのに、彼との会話も上の空だった。
ただ時間だけが過ぎ、、結局カフェでは肝心の話はできないまま、店を出る。
彼は、夕方からのバイトが迫っていたので、そのまま一緒に駅へ向かうことにする。
彼のバイト先は、ここから数駅離れたところにあり、うちの最寄り駅とは同じ方面だ。
相変わらず話のタイミングを掴めないまま、二人並んで同じ方面の電車を待つ。
短い沈黙が流れ、今しかない!…と、大きく息を吸い込んだ。
「あの―――。」
「間もなく、一番線に電車が参ります。」
私の声は、電車の到着を知らせるアナウンスにかき消された。
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