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久しぶりの旧姓に、それが自分に向けて発せられた言葉だと理解するのに時間がかかった。
「中村里佳さんですよね?」
声の主は同じ列に座っていた男性客のようだ。
自分のことだとようやく気付き、慌てて声の方へ振り向くと…
やっぱり、と人懐っこい笑顔でこちらを見つめる彼の姿があった。
「…て、鉄平さん?!」
そう問いかけたところで、シアター内の照明がゆっくりと落ちる。
彼は頷くと、周りを気にする様子で、声には出さず、あとで、と口を動かした。
私も、うん、と頷くと、姿勢を戻して予告編の始まったスクリーンを見つめた。
……。
…気まずい。
7席程離れてはいるものの、足を組み替えたり、飲み物を手にしたりする動作は、嫌でも目の端をちらつく。
映画に集中したくても、彼のことが気掛かりで、ストーリーは全く頭に入ってこなかった。
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