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丸裸になった太い幹を見上げながら坂道を下っていると、この街の誰もがそこで制服を手に入れる呉服店の店先に、見慣れた顔を見つけた。
「麒麟」
僕が声を掛けるよりも先に、そいつは澄ました態度で顔を上げた。
「鰻か」
冷めた声でそう言い放つと、膝元に広げていた分厚い本へと目を落とす。
「鰻原だって」
「同じだろう。鰻に変わりはない」
偏屈な意見を聞き逃して、その本の中身を覗こうとするが
そっと表紙を閉じられてしまう。
急に寒くなった昨日から、僕は箪笥をひっくり返してマフラーを出した。
手袋はこの歳で恥ずかしく、制服の学ランの袖を最大限に伸ばして手を閉じこめる。
それでも頬が赤くなってしまうのを止められないのに、麒麟は嘘のように平然とそこに座っていた。
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