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「ここの呉服店もいなくなったんだな」 麒麟の言葉に、僕は頷くことを躊躇った。 この街で育った僕らにとって、この店は当たり前の一つだった。 兄弟がここで制服を手に入れることを羨ましく思い、それに袖を通して成長した気分にも浸ってきた。 店のウィンドウに飾られた男女のマネキンは、いつからか幸運の人形だと噂された。 その異性である方の手を握れば恋が叶うとの吹聴に、僕らは用もないのに店へ入ってはその行為に勤しんだ。 店の主人は、やはりこの地で育った独身の女だったが、 僕らの遊びを見つけては怒る素振りを見せたが、困った時にはいつでも助けてくれた。 「店がなくなると、人もいなくなる。そんな簡単なことが、なぜ分からないんだろうな」 キャンディの包み紙をポケットに押し込み、呆れたように言う麒麟が、僕は大人なのか子供なのか判別できなかった。
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