毒の放つ街

１

「お前の家は……どうするんだ」

僕は、自分の声が震えてしまわないよう、意識して低いものを装った。

裏返ったことで緊張を悟られたくはない相手だ。

風は冷たいのに、ここぞとばかりに空は青い。

夏にあんなにも巨大な生物であったかのような雲は、今では千切れて薄くなった。

それが空全体に広がり、一枚のキャンパスに絵の具をこぼしたようだ。

「他に行く場所なんてない」

麒麟の高い声が風に乗って僕の元までやってくる。

そこには弱さや不安は紛れもなく混じってはいない。

僕は、その強い横顔を見ることさえ恐くて、閉まったシャッターに寄りかかり、澄んだ空を見上げた。