柴崎朱鳥

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1994年2月11日、私はこの世に生まれた。 父さんは婿養子だったから、私と父さんの名字は母さんの姓である薫森だった。 両親は私を大切に育ててくれた。 そして私が4歳の時、弟の謙司が生まれた。 幸せだった。何もかもが充実していて幸せだった。 しかし、幸せは長くは続かないとは本当らしく、私達家族の幸せは長くは続かなかった。 私が6歳の時、両親は離婚した。原因はお互いの浮気。しかもそれを知ったのが同時だったというのだから、ある意味素晴らしい。 そして、父さんは家を出ていき、母さんは浮気相手と再婚した。そして私と弟は再婚相手の名字である斎藤になった。後から母さんに聞いた話では、父さんも再婚したらしい。 父さんが出ていっても、不思議と涙は出なかった。かといって、怒りといった感情も感じなかった。何故かはわからない。周りからは、薄情だとか言われたが、その時は父さんの方が薄情だと思っていた。 新しく父親になった人は私と弟に優しくしてくれた。母ともうまくいっていたようだった。 そして、私が11歳の時に妹の瑠璃が生まれた。 2011年2月11日、17歳になった日、 私は一人になった。 両親と妹と弟が乗っていた車が居眠り運転していたバスと正面衝突したらしい。 即死だった。 家族は私を一人遺して、あの世へ逝ってしまった。 私は家族の遺体の前で泣いた。泣き叫んだ。喉が潰れて血を吐いても叫び続けた。警察の人に羽交い締めにされても、押さえつけられても止めなかった。それでも止めなかったのは、もしかしたら私の声が皆に届けば、戻ってきてくれて、そしていつものように「おかえり」といってくれるかもしれない、そう思っていたからだった。 だが、家族は帰ってきてはくれなかった。 葬式が終わって火葬して、骨を拾ってから家に帰った。しかしやはり真っ暗で、寒い。誰も「おかえり」とは言ってくれなかった。テレビや音楽を流してもつまらないかうるさいだけで、余計に虚しくなるだけだった。 その時私は決めた。 一人で生きていこうと。
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