柴崎朱鳥

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重い玄関の扉を開いた先は、やはりどこか懐かしかった。 館の内部は中世ヨーロッパの城の中身がそのまま生き写しにされているようだった。 広いエントランスに、赤い絨毯が敷かれた螺旋階段。中央の壁にはこの城の主とその家族が描かれた巨大な肖像画が飾ってあった。 螺旋階段を登り、長い廊下を歩き、たどり着いた先は玄関と同じような重々しい扉の前だった。 二階堂さんは扉をノックした 「旦那様、朱鳥様がお見えになりました」 奥から忘れもしない父の声が聞こえた。 「入りなさい」 二階堂さんはドアを開いた。 「どうぞ」 と促され、私は部屋に入った。 部屋に入ると扉はすぐ閉められた。前を向くと、革張りの椅子に座りうっすら微笑を浮かべた父がいた。 「久しぶりだな、朱鳥」 「あぁ、そうだな」 「姿は千恵美にもよく似て美しいが、根本は私によく似ているようだ。流石親子、といったところか」 「単刀直入に聞く」 「11年振りに実の父親に会ったというのに…。まぁ、いい。何を聞きたい?」 「何故私を引き取った」 「愛娘だからだといっただろう」 「違うな」 「何がだ?」 「貴様は自分に利益が無いことには首を突っ込まないし手を貸さないだはずだ。たとえそれが家族だとしてもだ。貴様が私を引き取ったのは貴様に何らかの利益があってのことだろう?」 「ハハハハハッ」 「何が可笑しい」 「流石だな、朱鳥。お前を引き取ったのも、お前に用があったからだ」 そういってあの人はデスクの上にあるハンドベルを鳴らした。そして直ぐに二階堂さんが部屋に入ってきた。 「お呼びでございますか、旦那様」 「アイツを呼んできてくれ」 「かしこまりました」 二階堂さんは一礼をして部屋を出ていった。 また直ぐに、再び部屋にノック音がこだました 「旦那様、奥様をお連れ致しました」 「入りなさい」 あの人がそう言うと、一人の女が部屋に入ってきた。 二階堂さんは女を部屋に入れた後、一礼をして部屋を出ていった 「春夜、こっちに来なさい」 「はい…」 私にはその姿に見覚えがあった。いや、よく知っていた。角張った顔、中背中肉だが短足でがに股な背格好、そしてあの独特のハスキーボイス… やはりこの人は… 「紹介しよう、妻の春夜だ。今日からお前の母親になる。まぁ、初対面ではないだろうがな」
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