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それはある月夜の晩。
出掛けましょう、と。
お嬢様はそう仰った。
月が綺麗だから、見に行こうと。
私はお嬢様のメイド。
バスケットにワインとチョコレート菓子を入れて、お供する。
真っ赤な真っ赤な満月。
模様が見えるほど、近くにあるそれは血で彩られたみたいだ。
「綺麗・・・」
夜はお嬢様にとって、後ろから引き立てる役者に過ぎない。血を舐めるお嬢様のように赤いそれはとても似ている気がした。
「咲夜」
「はい」
「ここにしましょう」
「わかりました」
さっとシートを引く。
紅魔館にほど近い、大きな木の下。少し丘になったそこを遮るものは何もなく、ただ真っ赤な真珠のような月があるだけだ。
お嬢様は非常に機嫌がいい。
もうずっとメイドとしてお傍にお仕えしていると、それの善し悪しも判断できるようになる。
今日はお嬢様にとって気持ちの良い夜なのだろう。
「咲夜」
「はい」
「今日は、その・・・迷惑じゃなかった?」
「なぜ、そのようなことを・・・」
「いえ、理由はないのだけれど・・・・・・、少し、ね」
「そうですか。迷惑などでは。お嬢様のお傍にいることが、私の幸せですから」
「それは・・・・・・?それともあなたの・・・・・・?」
「えっ?」
急に小さくなったお嬢様の声を聞き取ることはできなかった。尋ねようにも、そっぽを向いてしまったお嬢様に尋ねるのは気が引けた。
お嬢様が何も言わないのならば、粗相であったわけではないだろう。
私はバスケットからグラスを取り出し、そっとお嬢様に差し出す。
「ありがとう、咲夜」
「いえ、どうぞ」
こくこくと赤紫色の液体がグラスの中を踊る。綺麗な夜だからと、飛び切り上等なものを持ってきていた。
にやりとお嬢様が笑う。
「まるで血の色ね。どこもかしこも」
八重歯が白く光った。
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