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しばらく、沈黙だった。
お嬢様はワインを飲み、私はグラスが空いては注ぐ。それの繰り返し。そこに言葉はあっても、会話はない。
風が鳴く。
今日は比較的暖かい。
時折風に乗ってふとした拍子にワインの香りが蠱惑的に包んだ。
「ねえ、咲夜」
「はい」
「あなたは、なぜここにいるの?」
「・・・・なぜ、とは?」
「そのままの意味よ。なぜここにいるの?」
「・・・・・・あなたのメイドだから。これではお気に召しませんか?」
「召さないわね。あなたも分かっているのでしょう?」
「・・・・・・頷きかねます」
「いいのよ、気にしないで。私はあなたの意思を聞いてるの」
「わかりました。・・・・・・私はあなたを、愛しています。だからここに、お傍にいるのです」
「そう・・・」
「あの、恥ずかしいんですが」
「いいじゃない。あなたは今結ばれたのよ?」
「・・・・・・お嬢様?」
「そうね。ただ・・・」
「その可愛いあなたをもっと可愛がってあげたいわ」
その言葉が耳に届いた途端、視界が反転する。瞬間の衝撃の後、安定した視界の先には、お嬢様の微笑があった。
「私はね、咲夜。あなたが大好き。愛してる。知ってた?」
「そんなことは・・・・・・っ」
「可愛い声、いいのよ?もっと鳴いても」
「ですがっ・・・・・・」
近づいてきたお嬢様の顔はそのまま左に逸れて、私の首筋に。ペロリをなめられた後、ちくっと針が刺さる。お嬢様の八重歯だ。きっと血も出ているはずだ。
「咲夜の、・・・チュッ、血は甘いわね」
「お、嬢・・・さまぁ」
「あら、だらしない顔・・・こんな顔ほかのやつには見せられないわね」
「んあっ、・・・ひゃっ」
「んふふ、どうされたい?」
「どうって・・・・・・あうっ」
「早くしないと、興が覚めちゃうかも」
「っ、・・・・・・優しく、してください」
私が覚えてるのは、そこまで。ということにしたい。
乱れに乱れてしまったと、顔から火が出そうなほど恥ずかしい。
お嬢様の指は、ひどく妖艶ですぐに私は鳴いた。
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