ここにいて

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いつの間にかお茶は2つ用意するようになっていた。白い湯のみと、緑の湯のみと。色に特別な理由はないけれど、2つは常に寄り添うように、縁側にあった。 そんな今日もいい日和だ。 肌寒さも抜けきった穏やかな春の日差しは眠気を誘う。 どうせ、今日も用事はない。掃除も終わった。洗濯物も今頃陽気に日向ぼっこ中だ。 「ふわぁ~」 ゴロンと横になって。 風が頬を撫でて、遠くの空に消えていく。柔らかい日差しは睡魔を掻き立て、夢の世界へ誘おうとする。 今日くらいはいいか。 というかいつものことだけれど。 「お休みー」 どこの誰にでもない、言うなれば自分に挨拶して、瞳を閉じた。 ーーーそして、そこは博麗神社だった。 「あれ?わたしいつの間に・・・・・・、違う」 ここは今の博麗神社じゃない。 かすかな記憶の、そのまた奥。 すっきりとした境内に、まだ新しい注連縄。私が命をかけて格闘する賽銭箱も、傷一つない。 まぁ、賽銭箱の傷はほとんど私がつけたんだけど。 「・・・夢、か」 きっと、まだ先代巫女が生きていたころの博麗神社だろう。 「ふーん、懐かしいもんね」 めまぐるしい妖怪たちとの騒動に巻き込まれ、忘れてしまっていた思い出。 「私、過去を振り返るような可愛い女の子じゃないはずなんだけど」 思ったよりも、自分は可愛かったらしい。まあ、気にする事でもない。ゆっくりしていれば、そのうち目が覚める。それまで思い出を堪能するのも悪くないと思う。 そして、ふと見つけた。 まだまだ巫女としては不十分。 ろくに弾幕もいじれない、小さい頃の私だった。 .
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