合図

2/5

12人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
今日も相変わらず、私はダラダラする。時々思い出したように、箒で境内を掃除するフリをしながら、でも大部分は縁側に座りながら空でも眺める。 それが最近の私の日課で、そこに特に目的はなかったりする。 「おい、またサボりか?」 「・・・魔理沙」 スタッと軽やかに地に降りたのは、白黒の魔女服に身を包んだ魔理沙。不敵な笑みをしたまま、帽子を取ると隣に座る。 「もてなしもないのか?」 「お茶請けあるなら、出してあげないでもない」 「きのこならあるぜ」 「じゃあ、お茶無し」 「えー、がっかりだぜ」 言葉の割には、そこに私を責める響きはない。だから私はまたぼんやりと空を眺めつつ、魔理沙の話に耳を貸した。 最近咲夜に殺されそうになったとか、アリスから怒られて家から追い出されたとか、まともな話はなんにもなかったけど、笑いながら話している魔理沙の顔を見ると、悪い気分じゃない。 「・・・・・・」 話の間のふとした沈黙。 魔理沙の息を飲む声が聞こえた気がして、視線を遠くに放り投げる。 「霊夢、寂しいのか?」 そんなんじゃないわよ。 そう返すのはきっと昔の私だったら簡単だったにちがいない。 しかし、今の私には、どうしてもそう言うことが出来なかった。やっぱりという納得の気持ちと、そうだったのかという驚きが心の中に渦巻く。 「レミリアも心配してたぜ。というか心配してないやつなんか、幻想郷にはいないぜ。」 「・・・そう」 ありがとう。 そう音にはならない空気で喋る。 魔理沙には伝わったのか、一度だけ苦笑して、また話を再開した。今度は本当に少しばかり、興味を持っていれば聞くことができた。 魔理沙が帰って、すでに日は落ちている。山奥にある神社には、人の喧騒は聞こえるはずもなく、鳥や虫の鳴き声だけがこだまする。 ずいぶん暖かくなった。 もうきっとすぐそばに春が来ているだろう。 なのに、あいつはまだ来ない。 もう何年も会ってない気がして、その朧気な輪郭を捕まえようとして、何度もするりと逃げられる。 寂しい。 会いたい。 抱きしめて欲しい。 「・・・バカ紫」 私の声は、儚く消えた .
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加