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「今日も暇ねー」
頬杖をついたまま外を眺める。雫が屋根を伝って垂れては、ぽたぽたと鳴った。陰鬱とした曇り空は、一昨日から続いている。
「早く晴れないものかしらねー。洗濯物も乾かないし、湿気が多いったらありゃしない」
そうなのだ。
曇り空に、じめっとした空気に、賽銭箱の収入もゼロ。悪いこと尽くしのフルコースだ。
「せめて、煎餅くらいパリッとしてほしいものね」
連日の湿気で煎餅すら、やられていた。もう私を慰めるものはなさそうだ。掃除もできないし、出かけるのはもっとない。
「暇ねー」
「あら、呼んだ?」
ズズズズズと音が聞こえてきそうだ。目の前にかっぽりとスキマが開いて、含み笑いを浮かべた紫がそこにいた。
「何しに来たのよ、あんた」
「霊夢が寂しいぃ!っていうから来てあげたのよ?もっと嬉しそうにしなさいな」
「全然嬉しくないわよ。隙あれば、変なことしてくるくせに」
「あら、期待してるの?」
「違うわよ。それで、本来の目的は?」
ジト目でにらんでやる。
口元を扇で隠したまま、ふふふと笑うと、そっとスキマの中から出てくる。
「一応霊夢といちゃいちゃするのが目的なのだけれど・・・・・・まあいいわ」
「そう。それにしても、部屋の中で傘差すのやめてくれない?」
日傘は紫の基本装備ではある。しかし雨続きで憂鬱なときに傘は余計に気が滅入る。
「つい癖で。それよりも霊夢ー?」
「何よ」
「いちゃいちゃしないの?」
「誰がするかっ!・・・まったく」
「霊夢のいけずーっ」
「年甲斐もないことするな!」
体をくねくねさせる紫は気持ち悪い。本気で。
外見は非常に若くて綺麗だし、グラマラスな体の持ち主ではあるが、中身は数百年を生きたばばあなのだ。それを心底知っている私には非常に気味が悪い。
「またまた、恥ずかしがらなくていいのよ?・・・・・・霊夢のこと、本気だから」
「また、あんたは・・・・・・そんな、ことっ」
ぐっと身を寄せられる。
花の香りみたいな甘い雰囲気に包まれて、頭が働かなくなる。
「くっ・・・・、っ」
紫の妖艶な笑みは破壊力が違う。もうあと少しで唇が付きそうな、時。
「邪魔するぜーっ!」
がしゃーん、どかーん
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