月の影の王子様

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小さな女の子の、月明かりに照らされ僅かに浮かび上がる影。あまりにも薄いそれは、辺りとの不安定な境界線を殊更に拒絶し、自らの存在を主張しようとしている。 「こんばんは」 少女は空を見上げながら誰に話すとなく、そう口にした。傍から見れば自身の夢想に耽る女の子と思われてしまうだろう。けれど思う人々がいないのだから、話しは別である。 街全体は寝静まり、既に人家の明かりは消えている。仄明るい月が頼りの、静かな夜。何一つ侵すものがないはずのそこに佇む、少女という違和感。 魅惑的な月夜は、どんな夢想も現となる。 これは、少女の幻想。そして、とある少年の祈り。
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