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◆
少女は下向きの加速を感じていた。
――落ちる、
否、落ちてるよねこれは、などと考えられる自分は冷静なのだろうか。
長く伸ばした髪や長衣を重ねた服が風を孕み、背後で激しく揺れるが、速度を止める術にはなってくれなさそうだ。
思考している間にアスファルトの舗装路がいよいよ近づく。
――だめ……!!
「!」
身体が大地を打つ寸前、急に現れた腕に絡め取られて落下が停止した。
衝撃を打ち消すよう僅かに下がった腕が身体の勢いを殺す。
「か、」
篭手が当たった衝撃で呼吸が一瞬止まったのは、クッションが薄いからか。
腕にフックするくらいはあるが、落下の衝撃を和らげてくれるほどはないということか。今に見ていろ。
思わず半目になったが、自分を受け止めた腕の主、審判官を見上げる。
「あ、あの……」
「申し訳ない。巻き込まないようにと思ったが、手荒な真似をした」
「ううん……ありがとう」
抱きかかえていた腕から離れ、無事な方の脚で立つ。
片足でバランスを取ろうとして二、三度揺れたが、杖に身体を預けて正面から相手を見た。
「そ、そういえば、まだ名乗ってなかったよね」
「いや、君の名前なら――」
審判官の言葉を、ううん、と制止する。
「助けてもらった身だし、たとえ審判官の能力で分かっていても、自分から名乗らないとダメだよ」
自分の言葉に頷き、少女は頭へ手をやる。
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