灰色裁判

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長い髪を一房、選り取るようにつまんで見せた。 「――アサギ。私は、アサギ。この髪色と同じ、空色より強い青の名前」 「好きなのか、己が付けた名が」 「……そうかも」 アサギは笑みて髪から手を離し、審判官へ差し出した。 「あらためて、助けてくれてありがとう」 審判官はしばしの間沈黙していたが、やがて、 「ああ」 応じた。 「あなたの名前は……」 「審判官【404】と、先程名乗ったが」 「それは記号だよね。あなたが審判官になる前、戴いていた字名が、きっとあるよね」 「今は審判官だ。……審判官であり続ける限り、私は404でいい」 じゃ、じゃあ、とアサギは手を握ったまま食い下がる。 いつのまにか、握手をする手に力が入っていた。 「いつか……私とあなたが同じ目線で向き合った時、名前を教えてくれるかな」 「……」 404は兜越しにアサギの視線を受けていたが、やがて視線と共に握手を離す。 「――腕に自信が無ければ一人で歩き回らないことだ。今日はもう脱出した方がいい」 「誤魔化すの?」 「そのつもりなら、もう少しうまい言葉を使うだろう」 「……そう」 404の言葉を聞いて、うつむいたアサギの顔に影のように揺らぐ。 そのまま光の砂粒になり、足元から崩れるようにして消えていく。 完全に消える寸前、確かにアサギは404と視線が合った。 「忘れないよ……」 「……」 アサギの影が完全に消えたのを確認したとき、 『――審判官404』 音声が響いた。 音声のみを飛ばす簡易通信は相手が目の前にいるような錯覚すら覚える。 『審判長【Oz】から召喚命令がくだった。即時戻られたし――我らが、審判場へ』 「了解」 一方的に切れる通信もいつものことだ。 灰の街を一瞥し、404も光の粒子へと姿を変えてその場から消えた。
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