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空へ、立つものがある。
高く屹立し、その風貌をして灰の杭と言わしめるほど巨大な。
縦横に並び立ち、連続して在ることで集合となり、灰の群集は街へと名を変える。
その中でも特に目に留まる存在の前に、少女は立っていた。
白と青を基調とした外套に身を包み、装甲板を組み合わせたような杖を背に担っている。
腰まである薄緑色の髪は、少女が首を動かす度に僅かに揺れた。
しかし、この建物の足元からではどれほど見上げても頂上を拝むことはできない。
揺るがぬ反抗を示すように、空を突き上げる巨体。
「エンパイア・ステイト・ビルディング……」
思わず口にしたその名は、かつての栄華を失っても荘厳にそびえ立つものだ。
捨てられたN.Y.のとある路地――マンハッタン5番街。
世界にその名を知られ、かつて蜘蛛男が飛び回っていた道は、その姿だけを残して全てを喪失した。
内部に虚ろを孕んだ摩天楼は灰の壁となり、できあがったのは巨大な一本道。
無彩色に沈む景観は峡谷のようで、見上げると両壁に挟まれた遠くに碧の空が覗いていた。
繁栄を失い静寂に沈む街に、
『ウェルカム・トゥー、ニューヨーッ』
下手くそな英語が響いた。
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