灰色裁判

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「そんな軽装備で来るとは、ここが安全だと思ってたのか」 数回の試行で大口径の銃弾を探り出し、慣れた手つきでチューブマガジンに滑り込ませる。 フォアエンドを引くときに起きる散弾銃独特の硬い音に、思わず少女が身を強張らせた。 その一部始終を見ながら銃口を少女へ向け、 ――残念、 「ここは戦場なんだ、うん」 トリガーを引ききった。  ◆ 乾いた空気を打撃する爆音が響いたとき、少女はその身を横へ投げ出していた。 何かを考えての行動ではなく、死への恐怖を感じ取った体が本能的に動いたに過ぎない。 しかし、それ故に予想できなかったのか、あるいは初めから外すつもりだったのか、 「!」 男が放った銃弾は、空を突っ走って灰色の壁を穿った。 鉄筋とコンクリートの混合物に、びしり、と音を立てて亀裂が縦横に走る。 当たったら、終わり。 自分を貫き損ねた弾丸の唸りが鼓膜を叩いた瞬間、 「……!」 少女の脚は、主を無視して走り出していた。 緊張で息が途切れるのを抑えながら、下を向いてひた走る。 この呼吸が止まったら、進みをやめてしまったら、 ――殺される……! 脳裏を走る恐怖のイメージを払拭しようと頭を振り、大地を踏み抜く足に力を込めて加速する。 遅く、おぼろげな進み。 とても、この状況から逃げ切れるものではなくても、 それでも必死に進む。
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