第三日

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「その顔はね、イサギくん」 また腹に何か書き始めた 「ヒステリーに酒の力を借りて喚くよりタチ悪いよ」 俺はまだアヤが何を書いてるか分からなかった 「……俺はお前よりタチ悪いってか?」 今度は指を握りこぶしに変えて俺の腹にぐっ、と押しつけてきた 「あたしとイサギくんは、違うだけで同罪だよ」 「……あっそ」 「あたしは結局ね、アイツが大好きで、アイツもあたしを大好きだって信じてたからさ」 「……」 「ほんとは違った、ってだけでこんなにショック受けてる自分がねー……」 「……」 「ばっかばかしくて」 アヤは握りこぶしを開いた パーの手で俺の心臓に、今度はその手で、触れた 「シーソーなんだよね、気持ちなんてさ。必ずどっちかのほうが重いんだよ。分かってたのに、それを」 俺の心臓にある手は、まったくの女のもの 「気にしすぎて酒びたるなんてさ、あまりにもばかばかしいよ」 女の手が、こんなに気にならないのはなぜなのか 俺が分からないんだから 誰にも分かるわけない 聞けばマスターのだというママチャリに乗って、俺は夜中の道を行く 油の切れかかったチャリンコはキィキィ言いながら進んで行く 長い一本道は、月の光がよく当たる 月を見ながら帰るなんて、ガキの頃以来だ 月の光でも影が出来るなんて、知らなかった たまにするっと腰のあたりの手がほどけるから、また掴み直す 何度も何度もほどけるから、 何度も何度も掴み直す コンクリートの段差に乗り上げて、ガクン、となったら 一旦チャリンコを停めて、荷台に乗せ直す たまに二度ガクン、ガクンとなるから また乗せ直す 何度も何度も、 俺は同じことを繰り返した
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