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きっと私には、晴れ渡る空が待っていてくれる――
「照る照る坊主の馬鹿」
ちょんと指で弾かれた照る照る坊主が、土砂降りが映る窓を背景に、静かに揺れる。
今日は約束があったのに、晴れじゃないといけなかったのに。
まだ揺れている照る照る坊主を見ると、思わず泣きそうになる。せめて私の心だけでも、晴れでいたいのに。
携帯にある一件のメール、見なくてもわかっていた。約束、結局守れなかった。高校生最後の夏休みで、唯一会える日だったのに。
湿気ですっかり冷たくなっているベッドに腰を下ろし、憂鬱混じりのため息をつく。すると、携帯から着信音が鳴りだした。
返事をしなかったから、心配になったんだろうか。
携帯を手に取って、耳に当てた。
最初に聞こえてきたのは、ぼたぼたぼたという鈍い音。何の音かと顔を眉間にしわを寄せたが、第一声はこちらから発した。
「もしもし」
『かなえ、外を見て』
唐突な要望をしてきたのは、遠距離に住む彼。携帯を持ったまま、照る照る坊主越しに窓の外を覗く。
しかし、二階のそこから見ても、特別何もない。
「何もないよ?」
『よーく見てよ』
視界が悪い雨の中を、何があるのかもわからずに探すのは難しすぎる。
ついには窓を開けて、身を乗り出し見下ろすと、傘を差しこちらを見上げている人が見えた。
「えっ」
『驚いた?』
相変わらず雨がうるさかったが、すぐそこに彼がいるせいか、声がはっきりと聞き取れる。ぼたぼたぼたという音はどうやら、彼の傘を雨が叩くものだったようだ。
「どうして?」
『そりゃあ、約束だろ? 俺の住んでる所は晴れてるから、一緒に行こうぜ』
「でも、歩いてなんてとても無理だよ」
『約束の内容は、手をつないで散歩だろ? 相合い傘の中で手をつないでも、一緒じゃねえか』
「……馬鹿」
私は晴れ渡った空を見ながら、彼と歩きたかったのだ。こんな曇天、最悪の景色だ。
でも、私は家を飛び出していた。
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