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「あんたは……死んでしまうね。壊れちまうね。ひひひ……」
これからクリスマスを迎えるという時期。
街は夢のようなひとときを謳歌する準備を始める。
クリスマス前に、恋人との未来を知ろうと辻占いに駆け込む者が意外と多い。
裏通りに面した所に店を構える彼ら。占いが当たれば噂になり、占い師は評判になるのだが。
しかし、無料で占いをやっているこの中年男の場合は違う意味で評判になっていた。
「あなたもその内壊れるね」
人々が不吉なことを告げる中年男のことを噂にし始めてから数週間。
「アーク」の名を冠したこの街では、ちょっとした名物オヤジになっていた。
人に話を聞けば、
「金が尽きた浮浪者が行き場を失ってお遊びでやってる」
「年末になれば必ずひとりは出る」
など、基本的には我関せずの人々がほとんどであった。
しかし中には、怖いもの見たさというか好奇心から名物オヤジに会ってみたいという客もいる。
今日はコートを来た若いサラリーマン風の男がそれのようだ。
「面白いことを喋るんだってね。本当に死期が見えるのかい?」
「ワシはなんでも知ってるよ。ワシが告げる人々の死は仕組まれたものじゃ」
粗末な台を挟んで向き合っているにも関わらず、若い男は煙草に火をつけた。
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