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「商売も上々。デタラメな結果ばかりではないみたいだね」
若い男は足下にあった空き缶の中身を見る。
普通の人間でも1ヶ月は余裕で暮らしていけるくらいの小銭が詰まっていた。
「ワシはなちょうど3ヵ月前から不思議な声が聞こえるようになった。非公式の電波をこの頭で受信出来るようになっちまったんだろうな」
そう言って、中年男は左耳をめくり、中のチップを見せ付ける。
「3ヶ月前か。あの大地震による電波塔の爆発。それがきっかけか」
若い男は含みを持たせながらつぶやいた。そして更に続ける。
「俺は《ネズミ》でね。この街の情報を集めてる。企業の不正、アイドルの浮気。なんだっていい。高く売り付けられればな」
「つまりあんたは、有名人の死ぬ時期を知りたいってわけか?」
「ああ。アイドルの死亡現場なんて抑えられたらマスコミに最高に高く売れるぜ。どうだ?」
「……今の我々でも多少の倫理感情はあるが、人の不幸を悲しみ、喜ぶのもまた人。こんな身なりをしたワシじゃ、ネタを雑誌社に売り込んでも門前払いじゃからな」
「そこで俺の出番ってわけさ。どうだい? 分け前は弾むぜ」
言うと若い男はおもむろに立ち上がり、裏通りの更に奥まった敷地の方を指差した。
犯罪者なのど日陰人が暮らす敷地だった。
「そこを抜ければすぐ俺の家がある。コーヒーでもご馳走するよ」
若い男は中年男を引き連れ先頭を歩きだした。
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