2人が本棚に入れています
本棚に追加
「この街は全てを簡素にし過ぎた。ワシのような未来のない人間も、これから生まれる未来ある赤子も、みんな何桁かの数字にされちまう」
「数に当てはめたくなるのは人の性さ。答えが出しやすい公式が欲しいのさ」
「そうさね。だから俺の占いには誰も耳を傾けない。根拠がないからだ」
ベニヤ板数枚を釘で打ち付けただけのテーブルにコーヒーが2つ。
家というよりは小屋に等しい。
「まあ、話を続けようじゃないか。そうだ、とって置きの話をしてやろう」
中年男はポケットから1枚の紙切れを取り出した。
黄ばんだ白が時間の流れを教えている。
「ミレニアムマザーって知ってるか?」
「ああ。西暦9000年にとある玩具メーカーが開いたフェアだろ?」
「そうだ。千年記を祝ってそのメーカーが特別限定チップを配布したんだ。一部のマニアや子供たちは手にしたチップに歓喜したが、あれは失敗作だったんだ」
「失敗作?」
中年男は部屋の天窓から空を見上げた。
そこには何も見えないのだが、ずっと先に街の生活を見守る管理塔が建っている。
最初のコメントを投稿しよう!