2人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうじゃ。最初から欠陥を仕込んでおいたのさ。何も知らずにそのチップをバージョンアップと喜んで、自分の身体に入れたが最後。自分の意思では外せなくなる……」
「それは何故だい?」
「強迫観念のデータが身体中に流れるからさ。完全合理化、データ化を押し進めていたくせに、旧時代の人間がもっていた“精神”で人を支配しようとはね。それがやがて、自らの死を選択させる仕組みさ」
そこまで話を静かに聞いていた若い男が、険しい表情で立ち上がる。
「どこでその話を聞いた?」
コートの裏から拳銃が取り出されている。
その銃口は確かに中年男の眉間にあてられていた。
中年男はカップから手を離し、凍り付く。
「何だい急に。お、おい……冗談は止めてくれよ」
「もう冗談じゃなくなってるんだぜ」
周囲を見れば、中年男を捕らえている銃口は6つ。 いつの間にか若い男の仲間が5人増えていた。
「いや、これは違うんだ。全部嘘なんだよ。ワシみたいな人間は今の生活に楽しみを見出だせない」
中年男は膝をがくりと折って座り込む。
「だから口から出任せを言って人と触れ合いたかっただけなんだよ。それがあの占いなんだ」
最初のコメントを投稿しよう!