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(『今日仕事終わったら買い物行かない?』)
仕事終わりの楽屋は、皆の私服の匂いで満たされている。総合して、優しい匂いだ。
それぞれに帰りの支度を始めるその姿を、私は楽屋の隅にあるパイプ椅子に腰を下ろして眺めてた。
今日の私のこのあとを誘った当の彼女は、と捜してみれば何故かドライマンゴーをのんびりとゆったんと分け合って食べている。愛らしい笑顔を浮かべてもぐもぐと口を動かす姿を、遠目から眺める自分。
気付けばメンバーの半数は楽屋を後にしていた。
すると、視界にチラチラと何かが入り込む。ふと目線を上げれば、彼女たちは収録時と何ら変わりのない笑顔を浮かべて私を取り囲んでいた。
「ななみんやっと気付いたー!」
「ほんとに明後日のほうばっか見てるよね~」
「ん…、あら?」
「おもしろーい!」
「今日もななみんは面白かったねー」
みなみとあすかが笑っている。楽しそうに、人懐っこそうに。
首を傾げれば、二人は満足げに「ななみんばいばーい」と揃って手を振っている。
暖かそうな手袋が左右に振られるのを見て、私も急いで手を振り返した。それにまた笑って楽屋を出ていく中学生組は、やはり私が呼吸しているだけでツボなのだろうか。
ひとり残された楽屋の隅で、もう一度首を傾げた。
「ななみん、」
ふんわり。そんな言葉が似合うような声がして、同時にいつも変わらない彼女の匂いがやって来る。
また、ふと顔を上げれば、お次は支度を済ませてお洒落なコートに身を包んだまいやんが私の前に立っていた。
まいやんは少しだけその口元を不機嫌そうに下げる。
「行かないの?」
「えっ…あ、行く行く。ちょっと待って」
「そりゃあ、若い子と一緒にいたほうが楽しいかもしれないけどー?」
「…ほい?」
立ち上がり支度をしようとした私の口からは、あまりの不意打ちに情けない声がでた。
同じ目線ほどにいたまいやんは、拗ねたように笑って私を見ていたから。なんという破壊力だ。
そんな私を見て、まいやんも笑った。
ふわふわと、拗ねたような笑顔から一変して笑ったその顔は、いつにも増して美しく思えた。
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