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しかし、そんな笑顔も束の間。
「きゃっ!」なんて、まいやんの薄い唇から漏れた悲鳴。コートを着ながら視界の端に映ったまいやんは、その綺麗な茶髪をふわりと浮かせて振り向いた。
振り向くと手慣れたように、自分の下腹部あたりにさ迷っている細い手首を捕らえる。
「優里~。なにも帰り際までお尻触ることないでしょー」
「あ、挨拶だよ挨拶!」
「ちょっとさゆー、ちゃんと面倒見ててよー」
「ええっ、私!?」
「さゆりん面倒見てー」
「えええっ!自分で言う!?」
私から言わせれば、似た匂いを持つ二人はきっと相性の良いことだろう。
もう私たち4人しかいない楽屋には、ゆったんがあれが食べたい!これがしたい!とさゆに要望をマシンガンのように話す声ばかりが響いていた。
「あ、今日はななみんとデートなの?」
「うん。さゆはゆったんとお泊まり?気をつけてね~」
「それどういう意味なのまいやん~。でもでも、まいやんとななみんって案外ラブラブなんだね!」
「そっちこそ!」
「あのー、私のCMの台詞ネタにすんのやめてもらえます?」
4人一緒に外に出れば、さゆとゆったんは仲よさ気に手を繋いで「ばいばーい」なんて口を揃えて言う。
サッと組まれた私の右腕とまいやんの左腕。「楽しんでね」と笑顔で手を振るまいやんを横目に、なんだかドキドキしている自分がいて呆れた。
反対方向に歩きだした2人を見送って、私たちも歩きだす。
「ねえ、」
「ん」
「ななみんと腕組んで歩くって…、」
「…ん?」
「なんか、照れくさいね」
まいやんは、本当に照れたように私の右腕にその細い身体を寄せた。
薄暗い辺りに、私たちの合った歩幅が浮かび上がる。白い吐息が混ざり合う。
ふと、目線を下げるとまいやんはいつもしている暖かそうな手袋をしていなくて。自分でも無意識ではあったが、履いていた手袋を差し出した。
「や、いいよいいよ」って、いつも通りの謙虚さをだしてくるまいやん。
「使いなよ。私、寒いとこで育ったから慣れっこだし」
そう言えば、まいやんは呆れたように笑って私の手袋を受け取った。組んでいた腕をするりと抜け出し、子供みたいに立ち止まって履いた私の手袋。
ふわふわとしたマフラーに、私のカジュアルな手袋は少しミスマッチではあった。
が、まいやんが立ち止まっていたその姿だけで、なんだか地元の冬を思い出させた。
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