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買い物も一通り終えて、ご飯も大体食べ終わる頃。
向かい側の席に座り、ぼんやりと外に流れる人の流れを眺めながらまいやんが口を開いた。その動作一つでさえ、美しい。
「みなみとあすか、楽しそうだったね」
「ん?なにが?」
「帰り際、」
こちらは見ない。表情は穏やかだが、目線は帰宅ラッシュに人の溢れる道路や歩道のまま。
メロンソーダがストローを伝って弾けたとき、何気ない帰りのワンシーンを思い出した。
まいやんの隣に大事そうに置かれた私の手袋が、なんだか可愛く見えた。
「ぼーっとしてたら笑われただけだよ。いつも通り」
「…ぼーっとしてたんだ?」
不意にこちらに視線を戻しては、目と目を合わせて不敵に笑うその顔。の、向こう側。
「あ…、」とつい声が漏れた。
まいやんは不敵な笑みを隠し、つられるように外を見た。
「…、雪だ…」
「超久しぶりに見た…、」
さっきまで意地悪な大人みたいに笑いかけてきたくせに。今は、「ななみん!雪だ雪だ!」なんて幼稚園児みたいに無邪気な笑顔で呼び掛けてくる。
この人は、本当に美しい。
「ぼーっとしてた、…じゃないか」
「え?」
「まいやん、見てた。ずっとゆったんといちゃいちゃしてるまいやんを、見てたさ」
雪ではしゃぐその声を遮って、不敵な笑みに応える。するとまいやんは次は困ったように笑っていた。
「ごめんね」と言う、そのしてやったりな顔が憎たらしくて、愛らしかった。
「みなみよりあすかより、どんな若いメンバーと来るより、なまら楽しかったよ。今日」
そう言えば、まいやんは立て続けに困った顔して笑った。
外に出て、まだ降る雪を見上げる。
ここから家が反対方向である私たちは、ここでお別れだ。
まいやんは、自分の首に巻いていたマフラーを私に巻いた。行き交う人達が、ちらりとそれを見ていく。
彼女の匂いに包まれた私は、妙な温もりに驚き少しの沈黙を貫いた。
「髪。短いんだから、マフラーしてきなよー?」
「手袋、大切にしてよね」
「そっちこそ!」
「だーかーらー、」
けらけらと笑うまいやんは、私の手袋を左右に振って「また明日」と言った。珍しく雪降る中で。
今日も、彼女は美しかった。
すぐに消えてしまう雪の様に。
「したっけ、また明日」
雪の様に綺麗だから、いつか、
《雪の様》終
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