10人が本棚に入れています
本棚に追加
ガヤθхナマ 阿良々木さんたらとんだマゾ野郎ですの
「なんで、」
「なんで、だよ」
抑え込んでいた言葉が口から漏れたのと同時に、涙が零れた。
「ど、して……………なん、でっ」
「いってからでて、いくって………」
わかっている、分かってしまっている。
忍野は、別れを言うのが下手だから、あれはさよならが言えない、不器用な彼のあいさつなのだと。
さよならを決して言わない彼からの、彼なりの、精一杯の、別れのあいさつ。
わかりたくなかった。解かりたくはなかった。
急にいなくなった彼の事をいつまでも待ち続けられたら、どれほどよかったか。
解っていたのだ、彼は。
僕があれを“別れ”だと気づかないことを。
僕が気づかないで、その場を離れることを。
僕がそのあと、気づいてしまって、分かってしまって、傷ついてしまうことも。
すべて、計算尽くで。
彼は――――あの男は。
なんてひどい。なんてひどいことをするんだ。
あの男は、僕がこれから誰かのものになって、誰かをものにして、幸せになることを許しはしない。
僕の思い出になって、傷につけこんで、僕から“忍野”という男の痕跡を残した。
跡を、つけた。
一生物の、一生忘れる事はできないものになって。
結果僕の前から姿を消してまで、あの男は。
僕をものにしたかったのか。
自分だけのものにしたいと、思ってくれたのか。
忍野の計画は成功して、
僕はこれから誰かのものになっても、誰かをものにしても。
僕の心の、記憶の、体の根本的な、根っこの部分はほかの誰でもない――――忍野のものなのだ。
忍野だけの、ものなのだ。
なんてひどい。
なんてにくらしい。
――――ぽた、ぽたた。
溢れた涙が頬を伝って落ちていった。
悲しいからじゃない。悲しいわけではないのだ。むしろ、その、逆。
最初のコメントを投稿しよう!