私の愛犬を探してほしい

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 そしてガランと静まりかえった店内。  憮然とした顔を作っても、大きな音の舌打ちを鳴らしても、私の不機嫌をなだめてくれる人も居なければ相手をしてくれる人も居なくなった。 「んもう。なんで私が勤務時間外に店の留守番なんてしなきゃいけないのよ!」  席から立ち上がり、マスターが洗い物を終えた後の流し場へ向かう。 「まあ別に家に戻ってもすることないから良いんだけど」  意味なく手洗いしてやる。  意味なく。  ……。 「帰ってやろうかしら」  私が留守番をほったらかして家に帰ってやろうかと考えた時。  入り口に飾られている鈴がジャランジャランとまた鳴った。  マスターたち、もう帰ってきたのか、と顔を上げた私の目に飛び込んで来た顔は── 「こんばんは、相変わらず今日も寂れているわねla.頑固!」 「ボンゴレア!」  私の中で、一人で店に居るときに出くわしたくない人物ランキング一位に君臨してずいぶん長い女、ボンゴレア。  私の目の前にはそいつが立っていた。 「あら、フォカッチャ一人?」  なぜか仁王立ち、腰に手を当てて、いつでも高笑いしてやるわよと言わんばかりな高圧的な視線。  腰まで伸びる長い黒髪に、真っ赤な上等な生地で出来たワンピース。これまた高級そうなケープを首に巻き、彼女がla.頑固に颯爽と登場。
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