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正直、このお店はもう限界だと思う。
マスターには拾ってもらった恩もあるし、それからの毎日でもなにかと私を気にかけてくれているのは伝わってくる。
だからこういうことをマスターに口にするのはとても気が引けてしまうのだが。
◇◇
ある日の閉店後。
閑散としている店内で食器の後かたづけをしているマスターに、私は意を決して思っていることを告げることにしたのだ。
「マスター、話があるんですけど」
「賃上げ交渉か。無理だ」
「いえ、そうじゃないです」
「まかないの味の向上か。無理だ」
「いえ、そうじゃないです。味に不満はないですし」
「なら話は終わりだ」
終わっちゃったわよ。
私からの質問を受け付けているようで受け付けてなかったわね。
こういうのをパワープレイっていうのかしら。
「皿洗いストップ! 私の話を聞いてくださいよもう!」
ピンクのエプロンをしたいかつめの中年男から皿を取り上げてやる。無論、私の話に耳を傾けさせるためだ。
頭にタオルを巻いた男の鋭い視線が私の顔面を突き刺す。太い眉に口ひげを蓄えた男の体のラインは無駄に筋肉質。
しかも無愛想。
ふざけんな。これが店の一番目立つ場所にいるだなんて、そんなもん来る客だって来ないわ!
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