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アクリルケースに入れられた立てて置くタイプのお品書きを乱暴に鷲掴んでマスターの目の前に突きつけてやった。
「なんて書いてありますこれ?」
「ペペロンチーノと書いてある」
「他には?」
「la.頑固、アクセスマップは──」
「そうじゃない。メニューですよメニュー!」
お品書きを横に退け、代わりに私の顔をぐいっと近づけてやる。
変わらぬ表情のまま、マスターは近づけられた私の顔をただ見ているといった感じ。
「話は終わりだ」
「んなっ! またペペロンジョークですか?」
「違う。この話はするだけ無駄だからな。何度言われても、この店ではペペロンチーノしか扱わん」
ぐ、ぐぬぬ。
また皿磨きを再開してしまったマスターは、本当に私との話を終わらせてしまった。
ペペロンチーノしか出さない店。
そう。そうなのだ。この店は本当にペペロンチーノしか出さないのだ。
こういうエピソードがある。
ある日、町の飲食店を特集するという雑誌の記者が店を訪れた。その時、その記者は各お店、最低でも三品は取材させてもらっているんだとマスターに説明した。
マスターも“わかった、三品用意する”とそれに応じた。
ところが、だ!
このハゲ……もとい。このマスターときたら。 いったい何を用意したと思います?
「甘いペペロンチーノ、普通のペペロンチーノ、辛いペペロンチーノ。これで三種。ガッデムだよハゲ! 全部ペペロンチーノじゃないの! 雑誌で味は伝わらないわよ! うちの店だけ同じ写真が三枚載っちゃったじゃないの!」
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