私の愛犬を探してほしい

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 入り口の扉に飾られている鈴が鳴った。  マスターへの怒りに身を焦がしている私は、その荒くれる感情のまま入り口の扉を開けた来訪者を睨み見る。  なぁに、今はもう閉店後なのよ。少なくともお客様ではないのだから少しくらい睨んでもオッケー。 「やあ、ペペロペロ。今日もペペロンチーノ作りご苦労様だったね」  入り口から入ってきたのは男。ぺしゃんと潰れたような形をしたつば有り帽子を被り、だらしなくボタンを外した状態の白黒ストライプ柄のワイシャツに、ベージュのズボン姿。  意地悪くつり上げた口から出たマスターへのねぎらいの言葉はぜんぜん気持ちがこもってない。 「モリソバーノ、あんたまた来たの?」 「ひっひっ、今日も素っ気ないじゃないかフォカッチャ。まあそう邪険にしないでおくれよ、今日は頼みごとをしようと思ってここへ来たんだから」  情報屋、モリソバーノ。彼の素性を知っている者は数少ないが、その素性を知っている数少ない彼らはモリソバーノのことをそう呼ぶ。  ガリガリの痩せで猫背で髪の毛はぼさぼさで。受ける印象としては超不潔。こんなのとお近づきになりたいとは自分からは絶対に思わない。  だから、彼に接触を試みる人間の大半の目的は、彼の持っている情報に他ならないのだ。きっとそう。だってこいつこんなに不潔なんだもん。 「モリソバーノきったねぇ」 「ちょっ!? なんでいきなりそんなことを言うんだ!」  マスターの整った口ひげとは違うタイプの口ひげが、不潔中年モリソバーノの口周りに生えている。 「ヒゲソバーノきったねぇ」 「いじめやめろ!」  目をひん剥きながら怒鳴ってきやがったわね。
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