わだつみの誘い

5/11
前へ
/200ページ
次へ
 そして、コヨミが高校を卒業した頃。  両親がやって来て、出産を前提とした縁談を押し付けた。 「早いうちに結婚した方が、後々楽よ。」  母親が力説する。 「民宿の息子さんと結婚すれば、いつでもコヨミの好きな海へ行けるぞ。」  父親が簡単に言う。 「この時のために、家事全般と魚の扱い方を仕込んだんだ。早く孫の顔も見たいしな。」 「そうよ。こんないい話、他にないわよ。」  コヨミにはわかっていた。  両親は厄介な娘を嫁にやって、あわよくば孫と嫁ぎ先の財産を欲しがっている事を。 「結婚するくらいなら、死んだ方がマシだ!」  怒るコヨミを、引き取り先の親戚がなだめ、月夜のバルコニーで静かに語り合った。 「ナオさん。私、結婚しなきゃいけないのかな?」  ナオさんとは、引き取り先の叔母の事だが、おばさんと呼ばれたくないという理由で、名前で呼んでいた。 「実際に、一度くらい相手の顔を見てから、決めても遅くはないと思うね。案外、いいヤツかも知れないよ。」  実はナオさん、旦那さんと結婚するまで、何回もプロポーズを断ってきた。  しかし、それでも懲りずにナオさんを慕い続けた旦那さんに、根負けして結婚したと言う。
/200ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1058人が本棚に入れています
本棚に追加