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そして、コヨミが高校を卒業した頃。
両親がやって来て、出産を前提とした縁談を押し付けた。
「早いうちに結婚した方が、後々楽よ。」
母親が力説する。
「民宿の息子さんと結婚すれば、いつでもコヨミの好きな海へ行けるぞ。」
父親が簡単に言う。
「この時のために、家事全般と魚の扱い方を仕込んだんだ。早く孫の顔も見たいしな。」
「そうよ。こんないい話、他にないわよ。」
コヨミにはわかっていた。
両親は厄介な娘を嫁にやって、あわよくば孫と嫁ぎ先の財産を欲しがっている事を。
「結婚するくらいなら、死んだ方がマシだ!」
怒るコヨミを、引き取り先の親戚がなだめ、月夜のバルコニーで静かに語り合った。
「ナオさん。私、結婚しなきゃいけないのかな?」
ナオさんとは、引き取り先の叔母の事だが、おばさんと呼ばれたくないという理由で、名前で呼んでいた。
「実際に、一度くらい相手の顔を見てから、決めても遅くはないと思うね。案外、いいヤツかも知れないよ。」
実はナオさん、旦那さんと結婚するまで、何回もプロポーズを断ってきた。
しかし、それでも懲りずにナオさんを慕い続けた旦那さんに、根負けして結婚したと言う。
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