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月がポッカリ浮かんでいた。
私の視界から見える今宵の月は、教会の鋭い塔の先に姿を半分ほど隠し白金色の光を濃藍色の空に降り注いでいた。
夜のしじまは深く、周りには生き物の気配はない。
今宵は風もなく、静寂に満ちた時間がゆっくりと流れている。
私は吸い込まれるように、鋭角の塔と空虚な空に浮かぶ満月を見つめた。
飽くことのない、その神秘に満ちた景色。
だが突然、静寂に亀裂が走った。
どうやって登ったのであろうか、白い長衣を纏った一人の女性が塔の先に浮かび上がった。
ゆっくりとした動作には惑いもなく、まるで夢遊病者のようにふわふわと歩いている。
彼女は迷うことなく、塔の先端に向かって歩みを進めていた。
私は息を呑んでその不思議な行動を見守った。
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