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「この度は、就労中にこのような事故に………」
俺達よりも先に病院に到着していた課長が、榊の両親に頭を下げていた。話が面倒になる色恋の理由よりも、就労中の呼び出しって事にしてしまった方が、後々のダメージはかなり軽減されるはず。
本当に色々と気の利く上司を持つと………まったく。
「すみません、遅くなりました。」
榊の両親と妹に頭を下げた。両親はまだ榊と津村がギクシャクしているとは、思ってもいないらしい。申し訳なさげに津村と話をした。CTの結果、頭を打ってはいるらしいが、別状は無いらしい。左手の骨折と右の肋骨のヒビで済んでいた。一応その他後から外傷性の症状が出るかもという事で、2週間の安静入院となるらしい。
「津村、私と替われ。何かあれば、逐一報告するように。」
「課長……」
「いいな!これは命令だ。拒否は、許さない。」
あからさまに不機嫌に課長は、津村を見上げた。そして俺に視線を戻すと、行くぞと合図した。
駐車場までの道中、課長は彼らの事情を説明しろと、いたく真面目な声で言った。
「深い事情は………正直理解しきれていないんです。ただ、俺の結婚と榊が、人事の藤井寺さんに言いよって来られたというのが、二人の関係に大きな影響を与えているみたいで。」
「アホ津村。久美ちゃん無しで、頑張れもしないくせに。あ~ムカつく!この件が片付いたら、課長権限であいつら結婚させてやる。」
「本当にしないで下さいね。やっぱりタイミングとか、そういうのを2人でちゃんと納得して、そうなって欲しいですから。」
「私の美貌が崩れたら、即行で責任取らせてやる。」
「自分で美貌って、言わないでくださいよ。」
「悪かったな。アラサーは、褒められなくなるんだよ。特に美貌はな。」
「……だったら、怒り狂って叫ばなきゃいいのに…………」
「なんか言ったか?」
「いいえ。課長、幻聴ですか?」
「可愛くねぇ……」
「お互い様です。」
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