日常

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机で、引き算に頭を悩ませる子供達をニヤニヤしながら眺めていると、またしても扉が開いた。 「みんなークッキーが焼けたわよー」 「「「「「わーい!!」」」」」 焼きたてクッキーの積み重なったカゴを抱えて、エプロン姿のクレア嬢が入ってきた。 瞬く間に鉛筆を放り出した子供達に群がられる様は、まさに保母さんそのものである。 ここの授業はおやつで中断されるほど緩い。 「はいはい並んで並んで」 カゴを上に掲げ、群がる子供をかき分ける。 「待てお前ら! 年下の子と女の子が先だと言ってるだろ!」 「「さーいえっさー!」」 俺の言葉に比較的大きい男児達が立ち止まる 「はいはい、そっちは年齢毎に並ぶ」 「はーい」 年少組が歳やら誕生日を言い合いながら並んでいく、当然、その中でも女子が先頭に固まる。 「そうだ。何事もマナーを守らなくてはならない。お菓子に群がるのは蟻のする事だ。お前達は蟻か?」 「のーさー」 「そうだ、人間だ。ならば、人間として常にルールを守らなくてはならない。分かったか?」 「さーえっさー」 「よろしい、さあ、人間らしく順次受け取るがいい。順番を譲ってもらった子は、相手に感謝するのだぞ」 「はーい」 「……さて」 次は年長組に向き直る。 「順番は常に!!」 「「「れでぃーふぁーすとであります、さー!」」」 「そうだ、騎士たる者、常に女性を大切に、優先せねばならない! 押しのけるなぞ以ての外!」 口うるさい奴もいるが、レディファーストの考え自体は決して男尊女卑の考えではない。 「女が何もできないから男がやってあげるという考え」とか言ってる奴は、真髄を理解してないアホだ。 ……まあ、元は打算的な発想から生まれちゃいるが、それでもだ。 だいたい、この時代に男女平等もへったくれもないし、男なんぞ、女子供の盾になってナンボじゃい。 とにかく、こういう教育の場で、紳士を量産しておいて損はなかろう。 これぞ洗脳の正しい在り方よ。 「年下の者達全員に回ったのを確認してから、貰うがよい。クレア嬢にもきちんと感謝するように」 「りょうかいであります、さー」 ……まあ実際、こういう『騎士っぽい』振る舞いも、子供達にウケがいいからやってるんだが。 口調のモデルは言わずもがなである。
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