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「で、今回は何だ?どっかからの依頼か?」
「いや、これは俺から」
実は美術に全く造詣の無い尊の部屋、すなわち社長室はいたってシンプルだ。
申し訳程度に飾られた絵画も露店で売られていた数百円の代物という有様で、それをさも名画のように褒めちぎる取引先のご機嫌取り振りを見るのが、少々悪趣味な尊と愛凛の楽しみでもあった。
それゆえ深まるのは、早雪すら知らされていない今回の仕事理由。
「……なんでまた」
「んー、まあ、色々あってね。そうだ早雪くん、悪いんだけど至急これ、詳しく調べてもらえる?」
指差した資料に記されているのは、今夜行く予定の画廊の主人の家族構成。
更に更に不可解な雇い主の意図に眉を寄せ、本当にこれでいいのかという風に早雪はもう一度聞き返す。
「……コレを?」
「そ。できればこのご子息のお友達なんかもわかると嬉しいなぁ、なんてね」
私生活はしっかり把握していても、こういうあたりは本当に今でも全く掴みどころがない。
ただ、尊がこうして意味深に微笑む時、その結末にはたいてい何かしら彼の勝利が待っている。
(わかっちゃいるけど、もうちょっと計画ってモンを知らせて欲しいよな)
故に最終的に逆らう事だけはできない早雪は、小さく首を竦めて自分のパソコンに向かい始めた。
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