第1章 赤目の少女

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(そう言や、最近見た映画で似た様な場面あったな……) と、そんな状況でふと思い出されたのはまだ記憶に新しいホラー映画のワンシーン。 それはゾンビの群れを撒いて油断した主人公達が突然出てきた新手に襲われ、主役の一人が殺される物語終盤の一場面。よくあるお約束と言える場面だ。 何故今そのシーンを思い出したのかは分からない。が、思考はだんだんとその映画の方へと引っ張られていく。 (確かあれだと一息吐いてへたったところを襲われて噛まれたんだっけか……) 現状に近似したその場面を思い返しつつ、同時に背筋を嫌な感じの寒気が走った。 似た状況に置かれているから唐突にこんな事を思い出したのかと思い、 (いや、違う!) 強まる悪寒、危険を知らせる何かが思考を否定した。 意識が眠っている間――夢の中での思考なんてそもそも十分に回っているわけがない。 だから人が見る夢は荒唐無稽で、起きた後冷静になって考えると本人ですら理解できない事を夢見の自分は平然とやってのけていたりするのだ。 つまり今の思考は無意識が生み出す剥き出しの本能そのもの。 その本能が俺にあの映像を思い出させたと言う事は、 「っ――!」 答えに行き着いた瞬間、背中を刺した寒気が確かな気配となってその存在を主張する。 緩んでいた糸を一瞬で千切れそうな程に張り詰めさせる、尋常ではない緊張感。 全身を駆け巡るそれに後押しされた俺は背後を振り向き、そして見つけた。 「……冗談、だろ」 「ァァ――ァァア――」 苦悶を浮かべた瞳で此方を捉えた化け物共の大群を。 「何時の間に」という言葉が心の中に浮かんだが、突如訪れた絶体絶命の状況がその呟きすらも喉元で押し留めてしまう。 跳ね起きる様に立ち上がって逃げ道を探すが360度を見渡して視界に入るのは犇く異形の姿ばかり。 既に包囲されている事は火を見るより明らかで、何処にも逃げ場なんて残されていなかった。 (マジかよ。こんなシチユ今までなかったぞ!?) これまでの経験でこの世界に迷い込んだ際現れた化け物の数は多くても一回に三体まで。 しかし辺りに佇む異形の数は優に十を超えている。それどころか立ち込めた白霧の向こうにもうっすらとした影が無数に蠢いていた。 黒の獣は包囲網を狭める為にじりじりとにじり寄ってくる。
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