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「――――……っ?」
強く閉ざした目を開いたのは何時まで経っても自分が想像し、覚悟していた痛みが訪れなかったから。そうして開く視界に映ったのは眼前で広げられた奈落の黒を貫通した真紅の色。
それが全長二メートル近い大剣だと気付いたのは貫かれた異形が煙となって霧散した後。
穢れなく、流麗でありながら複雑な形状をした紅の全貌が明らかになった時である。
(なんだ、これ……)
「――どうやら間に合ったみたいね。そこの腰抜かしてるヘタレ、怪我してない?」
「!?」
突然出現した鮮やかな色彩に得る驚き。それを更に加速させる声が頭上から響いた。
そして此方が頭上を振り仰ぐよりも先に風切り音を引き連れて声の主が俺の前に着陸する。
そう、着地じゃない。紛れもない『着陸』だった。
何故ならその存在は背に担った巨大な四枚の鋼翼と、陽炎を噴出す機械の脚が生み出す浮力によって浮遊していたのだから。
此方に背を向けて黒の大軍と対峙する紅の機人。
その姿から見て取れたのは肘から先、それに装甲の隙間から覗く細身の太腿から下を覆った赤色の装甲。
まるで現実味のないその存在を前にし、しかし混乱の中覚えた感情はそれが純粋に美しいと思う気持ちだった。
声の主が女性――それも自分と同世代の少女だと分かったのはその衝撃的な容姿にひとしきり呆然とした後。
白黒の世界には眩し過ぎる金色のツインテールを靡かせる彼女は地面に深々と突き刺さった刃を鋼の五指で引き抜き、油断なく切っ先を異形達に向ける。
「お前……一体……」
「対象の保護とフィールドの破壊完了。青葉、こっちはもう大丈夫だから先に海斗達の援護に回って。アタシもここを片付けたら向かうから」
「っ、おい、
そんな状況を前にして零れ落ちた問い。しかし眼前の背中には届かなかった様で、少女は戦闘態勢を維持したまま俺じゃない誰かと言葉を交わしていた。
その様子に今度は明確に。背を向けたままの彼女へ届く様に語気を強めた呼び掛けを放つ。
が、声が終わるよりも先。言葉は振り返る少女の視線によって圧し留められてしまった。
宝石の如く綺麗で曇りの無い、纏う装甲よりも赤い双眸に魅入られて。
そして確かに交差した視線は遮る様に割り込んだ鋼鉄の五指に阻まれ、
「さあ、目覚めの時間よ」
「―――」
掌から放たれた眩い光によって俺の意識は霧散した。
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