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「ねーねー、ゆーきは将来何になりたいの?」
近所に大型量販店が開店したことで日に日に寂れていく、アーケード型の商店街。
午後。それも夕暮れ時だと言うのにそこは人足も疎らで閑散としていて、活気のない商店群に差し込む茜色はまるで近づく終わりを予感させる様だった。
そんな街を揺れる真新しい二つのランドセルが並び行く。
黒と赤をそれぞれ背負うのは二人の児童。まだ男女の性差も意識せず、少年と少女はただ純粋に仲良く手を繋いで歩いていた。
微笑ましい光景の中で女の子が発した問いにガラス張りの天井を振り仰ぐ少年。
子供特有の突拍子もない質問に男の子は「んー」と間延びした声を漏らし、やがて笑みを含んだ視線を彼女へと向ける。
「オレは大きくなったらこまってる人を助けるヒーローになる!仮面ライザーみたいな、カッコいいせーぎの味方に!」
少年は日曜の朝に放送している変身ヒーローの姿を思い出しながらそれに自身を投影した想像を夢として話し出す。憧れを語るその瞳は無邪気な輝きに満ちたもの。
紡ぐ空想に気分が高揚したのか彼の歩調は跳ねる様に軽い。
どんなヒーローになりたいのか―。
どんなポーズで変身するのか―。
どんな必殺技を出せるのか―
内容は子供故に殆どテレビで見たものそのままだったが、少女は呆れる事無く寧ろ笑顔で彼の願望を聞いていた。
実は彼女がこの問いかけをしたのは今回が初めてではない。少年は覚えていない様子だったが少女は数日前にも同じ質問をしていたのである。
そして少年から返ってきた答えと眩い笑顔はその時と同様のもので。
その笑みを見た彼女は彼に気付かれぬ様に顔を逸らして小さくはにかんだ。
「でなー、って……あれ?もう家?」
「あ……」
喋るのに夢中になっていた少年は周囲の風景が覚えの濃いものになっている事気付いて言葉をとめる。見ればガラス張りのアーケードはとうの昔に通り過ぎ、見上げた空は茜色から藍色へと染まり行く最中のもの。
そうして横を向けば丁度少年の家があって、その二軒先には少女の家が見えた。
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