第1章 赤目の少女

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○    ○    ○    ○ ――ふと、自分の意識が覚醒した。 目覚めの理由はよくわからない。何かきっかけがあった訳でもなく、誰かに起こされたわけでもないのに急に目が覚めたのだ。 そんな起き方をした所為か頭は何処かぼんやりとしていたが、寝覚め自体は悪くない。 けれどそんな目覚めたばかりの頭でも分かる事が二つあった。 一つは重い瞼を開けて見える景色が寝ていた自分の部屋ではない事。 そしてもう一つは『今』の自分が起きている様に思っていても『現実』の自分はまだ夢の中と言う事である。 「またここか……」 何処か知らない。しかしここ最近何度も目にした青のない空を見上げて溜息が落ちる。 仰向けに倒れていた体を起こして見えたその『世界』は、どこまでも続く白と黒のコントラストによって構築されたもの。 白く霞がかった景色の中には壊れた建物にも見えるデタラメな形をした構造物や、墓標にも似たオブジェが乱立していた。 誰がどう見ても異常で、おおよその人々が知っている世界とかけ離れた光景。 そこからこの後我が身に降りかかるだろう災難が予測出来た俺の口から落ちる二度目の溜息。 「これで四回目だっけか。なんなんだろうな、ここは」 睡眠の余韻を頭を掻きつつ立ち上がる事で振り払い、準備運動代わりに己に問いを一つ。 しかしここを訪れるたびに考え、しかし一度も答えの出なかった疑問が同じ条件下で解ける理由もなく。動き出した思考は見事に空回りする。 そうしてやっと頭が動き出した事を自覚した俺は来るべき瞬間に備えて足を肩幅に開き、その場で腰を低く落とした。 俺、天原優希(アマハラユウキ)は自分で言うのもなんだが面白味のない。つまらない人間だ。 この間まで通っていた高校では彼女無し。 部活も無所属で三年通して家かゲーセン直通の帰宅部員。 遅刻欠席は殆どしなかったものの、別にガリ勉と言う訳でもなく成績は可もなく不可もなくでだいたい平均点。 趣味らしい趣味と言えば日曜朝の特撮鑑賞とラノベ的な物語を考えるくらいでそれ以外は特に興味もない。 ついでに補足すれば高校三年間どころか年齢=彼女いない歴の悲しい男である。 ここまでで使った「なく」「ない」の回数で分かる様に俺には全く誇れる事がない。 ついでに身長と体重も律儀に全国平均に近く、ここまでくると最早自分はそう言う運命なんじゃないかと思えるから不思議なものである。
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