Black And Gold

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少女の白いスカートの端が漆黒の闇に、蝶のようにひらひらと舞っている。 「どこに行くの?」 幾分、落ち着きを取り戻した透子はキビキビとした口調で絢瑛に問うた。 「怪しい集まりに参加するとでも?」 青年は珍しく笑みを含んだ声で更に返した。 「美女の血でも吸うとか?」 「脅かそうと思っても無駄よ!」 透子は慌てて青年の言葉を遮った。 絢瑛が言うと冗談でなくなるのだ。警戒を強めながらも好奇心旺盛な少女は矢継ぎ早に青年を問い詰める。 「知ってるのよ!時々深夜に屋敷を抜け出している事くらい!」 「毎回、屋敷の窓に顔を貼り付けて見送りしていたのは知っている。」 青年の揶揄に透子は更に顔を赤くした。 「知ってたのね!」 「一緒に来たかったとは気付かなかったが。」 「全てお見通しって訳ね。知ってて知らん振りしていたなんて悪趣味だわ!」 「コソコソ付回すのだって十分悪趣味だがな。」 嫌味の応酬に勝てない事が分かると透子は頬を膨らまして、絢瑛を恨めしげに睨み上げた。 やっと大人しくなったな、と青年は呟く。 周りは未だ漆黒の闇に囲まれ、透子の目はどんどん麻痺してゆく。 道標もない深夜の森の中で迷うことなく揺るぎない足取りで進んでゆく青年の横顔を盗み見た。 貴族特有の染み一つない白皙の肌、艶やかな黒髪が頬に掛かり元々乏しい表情を更に不可解にさせる。 彼のミステリアスな雰囲気と美貌に心奪われている女性は多い。 確かに美しいと思う。 しかし、心を許すことは出来ない。 「着いたぞ。」 絢瑛の声に透子は我に返った。 知らぬ間に到着していたらしい。 視線を上げたその先には見渡す限りたゆたう水面だった。 目を凝らす透子の前に厚い雲に覆われていた月が突然姿を現し、その水面に白銀の光を降り注ぐ。 この世のものとは思えぬ幽玄の美しさ。 悠久の時が終焉を迎えたような静けさ。 透子はこの禁忌の景色に息を呑んだ。 「ああ、綺麗・・・。」 透子の無邪気な歓声とは裏腹に絢瑛は無感動に湖面を指差した。 「北の方角を見てみろ。」 訝しげな透子の視線の先に現れたもの。 一瞬言葉をなくし、絢瑛と湖面を交互に見詰める。 そこには煌々と輝く水晶の城が湖面に浮かんでいた。 蜃気楼のように揺らめき、月光が降り注がれた部分だけが存在を誇示する幻想の城。
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