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その日、兵六が釣りから帰るとおすわが囲炉裏で晩飯の粥を作っていた。
おすわは兵六を見るとにこりと笑みを向けた。
「兵六さんや、魚は釣れたかえ。」
「いや今日もだめだ。どうも最近、調子が悪い。まるで海中の魚がどこかへ行ったみてえだよ。」
「ふふ。そんな馬鹿な話があるものかね。
まあ晩飯が出来ておる。さ、こちらにおいでなし。」
兵六はひとつ頷くと囲炉裏端に座った。
おすわは鍋の中をもう一掻き混ぜると椀に粥をよそい兵六に渡す。
兵六がそれを受けとると自分の分をよそった。
そして二人は味気ない粥を食べた。
いつも二人は話をしながら飯を食った。
といっても兵六はおすわの話を聞くだけだが。
村の子どもが水菓子を取り合い喧嘩していた。
一昨日隣村の鶏が狐に食われたらしい。
今年の浅蜊は旨い。
しかし終始ただにこにこしていた兵六が、おすわが村の克吉の娘が嫁ぐそうだと話した辺りで顔を曇らせた。
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