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「や、や、兵六さん。これは一体どうされたのか。」
おすわは怖ず怖ずと兵六に箱を目の前に差し出す。
数年前からこの家にあるそれは未だ美しい光沢を保ち、かつてのままであった。
「これか?
これは何年か前におらのところに居ったじっさまのもんじゃ。」
「じっさまの…。」
おすわは顔を僅かに歪めた。
それはまるで悲しむような、悔しむような、哀れむような、何を考えているのか分かりにくいものだった。
「これが一体どうかしたのか?」
兵六は尋ねた後にあることを思い出し、はっと目を開いた。
「…そのじっさまは自分を、太郎じゃと言っておったな。」
それを聞いた途端、おすわは顔に両手を遣りわあと泣き出した。
そのため美しい箱はカラカラと音を立て床に落ちた。
蓋が開き、中身の何もないそれを見ておすわはさらに泣く。
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