ラブレター

4/5
前へ
/66ページ
次へ
あいつの存在を知ったのも手紙だった。 これと同じ封筒のラブレター。 俺が好きだと書いてあった。 俺はあいつを知らなかったし、消印もないそれに悪戯だと思った。 そしてそれを捨てた。 しかし、次の日からポストは溢れる程の手紙が捩じ込まれるようになった。 次第に狂気じみるあいつの愛の言葉。 手紙だけじゃない。 中には顔も知らないあいつの写真や俺の隠し撮りをした写真もあった。 中身を確かめるのが怖くなり始めた俺はそれを開けずに捨てるようになる。 それでもあいつは止まらない。 俺は道を歩けば背後に人の気配を感じるようになった。 知らない番号からただ一方的な愛を語る電話がくるようになった。 やめてくれと叫んだが何も変わらない。 着拒してもあの手この手で続く。 そう。あいつはストーカーだ。 警察に相談したけど、直接害がないからと聞いてくれなかった。 離れて暮らしていた家族や友人は念のために引っ越した方がいいと。 でも仕事がある俺は簡単に離れる決意ができなかった。 あの日…俺の26回目の誕生日、仕事が終わり疲れて家に帰るまでは。 あの日俺が家に入るといつもと違う雰囲気を感じた。 何だか…いつもよりやけに部屋が綺麗だった。 不審に思いつつ、奥に進み電気をつけた。 そして絶句した。 目の前にテーブルいっぱいの料理、26本の蝋燭とおめでとうの文字のある誕生日ケーキ。 頭が真っ白になり、立ち尽くしていると電話が鳴った。 恐る恐る見ると、公衆電話からだった。 しばらく出ないでいるが、何度切れてもかかってくる。 俺は思いきって電話に出た。 そして聞こえた、あの女の声 「愛しい人。ハッピーバースデー。私からのプレゼント、気に入った?」 俺は電話を投げ捨て荷物を纏めた。 何日か友人の家に逃げ込み、急いで引っ越しを決めた。 もちろん、電話も解約した。 俺は見ず知らずの女に恐怖し、見つからないよう遠くに逃げたのだ。 そしてあれから2年間、安心していたのに。 狂ったあいつから、逃げ切ったと…。 俺は手紙を破り捨て、膝を抱え込んだ。 あのストーカー女に見つかった…。 狂ったあいつに…。 俺の中に恐怖、不安、そしてあいつへの怒りが渦巻き出す。 なぜ俺がこんなに苦しまなければならないんだ! 俺は唇を噛みしめ、立ち上がる。 その時
/66ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加