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第1話 "先の世から来た娘"と出逢って
「まことに、あの女子は肝が座っておる…!」
某が部屋に入ると、小文吾が妹の沼藺(ぬい)殿とそのような会話をしていた。
「おお…信乃!」
こちらに気が付いた彼は、屈託のない笑顔を見せる。
許我(こが)へたどり着いた某は成氏公に謁見をするが、あらぬ疑いにより追われる身となってしまう。芳流閣で死闘を繰り広げた男・犬飼見八(いぬかいけんはち)と共にその場から川に転落し、流れ着いた先は利根川付近にある町・行徳。そこで宿を営む犬田小文吾(いぬたこぶんご)と沼藺の兄妹に助けられる。しかし、匿ってもらってからまもない頃に、某は生死の境をさまよっていたのだが―――――――――――――
「何故、あの娘は某を救ってくれたのであろうか…?」
某は隣部屋の襖を見つめながら呟く。
「“誰かを助けるのに理由がいるのか?”…だそうだ」
「見八…?」
部屋の壁に寄りかかりながら、見八が一言呟く。
「わしが“破傷風にかかった貴様を何故、救おうとするのか”と問うたら、そのような答えが返ってきたのじゃ」
「…助ける…理由?」
「左様。おそらく…あの娘にとって、死にそうな命を救う事は、人の子として当たり前と考えてるのやもしれん」
「人助けが当たり前…」
その言葉は、普通であって普通でない。
…戦のないという時代から参ったからなのか…。それとも…?
某は狭が申していた台詞の真意を考えていた。しかし、今思えば…彼女の純粋でまっすぐな精神(こころ)ゆえの言葉だったのだと実感ができるのである。
そしてこの会話から数時間が経過した後、狭が目を覚まし、某や現八――――――――この時はまだ“見八(けんはち)”と名乗ったおった若者。そして、小文吾や妹である沼藺殿は、丶大法師(ちゅだいほうし)と名乗るご出家から、己らが持つ宿命の話を聞くこととなる。
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