勝手にバレンタイン

バレンタイン

「おはようございます！」

バイト先のお店の裏口から勢いよく中に入る

「今日も寒いですよ～」

「おう。シロちゃん鼻の頭が赤いよ」

お店の中に入ると、温かい空気の中に、チョコレートの匂いが広がっている

他にも砂糖の溶けるカラメルやスポンジが焼けるバターと卵の甘い匂い

幸せの匂いだ

「今日は何から始めます？」

上着を脱いでエプロンを着ける

「ん～。洗い物！」

オーナー兼パティシエの鞍馬さんが陽気にシンクを指差す

シンクには山盛りの洗い物

「うわ～。最悪！」

それでも笑顔になってしまうのは、チョコレートの香りのせいだと思う

この洋菓子店でバイトを始めて、早半年。予想していたよりも重い鉄板とか、でか過ぎるボールとかにも、カタカナばかりのケーキの名前とかにも何とか慣れて、やっと面白くなって来たところ

「洗い物が終わったら、卵３０個卵黄と卵白に分けて、それから販売ね～」

……人使いの荒い鞍馬さんにも慣れました