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「常に持ち歩いているのかい?」
「もちろんだとも」
「君…男子だよね?」
「愚問だね。何なら顔より先に私の性別のほうを確認させてあげてもよいが…」
「遠慮しておこう」
「だろうね」
僕は大人しく鏡を覗いて自分の顔を確認した。うん、いつも通り。代わり映えのない平凡な顔だ。
そして改めて目の前に立つ人間の顔をまじまじと見た。…うん、整った美形だ。僕と似ても似つかない。似ているところ…強いて言えば、髪の色くらいだろうか。
「やはり嘘だったね、その噂。面白い。一体どこの誰が流したデマだろうね」
「…嘘?いいや嘘なんかではないさ。おかしいな…鏡がくもっていたかな」
本当に不思議そうにしかめ面をする彼が、なんだか可愛く見えた。
わざわざ噂とやらを確かめるためだけに僕に会いに来るなんて、天然なのか好奇心が旺盛なのか…
袖口で何度も鏡を拭っている姿を微笑ましく見ていると、彼がおもむろに顔を上げて僕を見た。
じっと視線を絡ませ、その真剣な目に僕は息を飲んだ。何だか緊張してしまって、情けない顔をしていたと思う。
「うぅむ…似ていると思うのだがなぁ……」
「まだ言うのかい?まあどちらでもいいさ。君が鉢屋三郎、僕が不破雷蔵であることは変わらないのだから」
「それはそうだ。…随分時間を取らせてしまったな。すまないね、雷蔵」
彼は時計をちらりと見て申し訳なさそうに言った。僕は気にしないでと笑顔で首を振った。
もうすぐ休み時間が終わる。本当は読みたい本があったのだが、この予想外の客人のおかげで中々に面白い休み時間だったと思う。
…と同時に、このまま彼と別れてしまうのはどことなく寂しいなと感じた。
ポケットに鏡を戻す彼に、何気なく声をかけた。
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