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「ねえ鉢屋くん」
「何だい?」
「君、本は好きかい?」
「…まあ嫌いではないな」
「そうか…。図書室には面白い本がたくさんあるんだ。…えっと、その…今度見に来るといい。きっと好きになれる…から」
…て、何言ってんだ僕。
ワケわかんないよ。見に来るといいとか!好きになれるとか!何勧めてんだ僕は。どこかのセールスマンじゃあるまいに。
彼も困惑しているのか、きょとんと僕を見ていた。
「いや…別に無理強いしてるわけじゃなくて…その…」
僕がしどろもどろしていると、彼は何かピンときたのか急に笑顔に戻った。
「分かっているよ。ちょうど良かった。実は最近面白い本がないか探していたところなんだ」
「……さっき、本好きじゃないって言ってたよね」
「おや?そんなこと言っていないぞ。君の聞き間違いではないかな?」
いけしゃあしゃあと。
彼があまりにも自然体でうそぶくので、僕はさっきまでの動揺も忘れて呆れてしまった。
彼は僕の机に両手をついてぐっと距離を縮めてきた。
「雷蔵の当番はいつだい?」
「火曜日と水曜日だけど…どうしてそんなこと聞くんだい?」
「決まっているよ。雷蔵のオススメを聞きたいからさ」
やっぱり天然だなと確信した。にこにこしながらこんなこと言ってくるなんて、うっかりときめいた自分が嫌になる。
間近に迫った彼の顔をじっと観察して、どこもかしこも綺麗なパーツを確認して、やっぱり違うよとひとりごちた。
さっきまで面白い冗談だった噂が、今更ながら本当でなかったことに落胆した。
僕がため息をつくのと同時にチャイムが鳴った。休み時間が終わってしまったのだ。
「おやいけない。それじゃあ私は行くよ、またね雷蔵」
「あ…うん」
"また"。それだけで気分が浮上した僕は案外単純な性格だ。けれど教室を出ていく彼の背中をながめているうちにまた寂しさを覚えてしまって、何なんだろうと頭を抱えた。
ああもう帰りたいなぁ…
僕は授業が早く終わりますようにと、珍しく本気で願った。
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