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しかし有名になったからといって売れた本の代金が彼の所へ来るわけではなく、彼の仕送りも虚しく院は破産の危機にあった。 そこへ愛娘を亡くしたある貴族が娘の代わりを探し院へやってきた。 嫁ぎ目直前に流行病で亡くなったらしい。しかし、その家にとって病死とはいえ、婚約が無かったことになるのは随分まずいことだったらしく両親は必死を扱いていた。 探しているのはブロンドに蒼い瞳の18歳の少女。 そしてアリシアもブロンドと蒼い瞳をつ18歳になったばかりの少女だった。 婚約相手とその貴族の娘は一度も顔を会わせたことが無かったのはその両親にとって幸いだっただろう。 娘よりも数段と見目麗しいアリシアに彼らは目を付けた。 本人よりもお転婆なところもあるようだが、結婚前に直る見込みがあるものだったし、どうせ他人の娘なので美しい方が良かったのだろうと、ツェザーリは思った。 しかし、いくら何でも人身売買紛いなことに自ら進んで行くはずがない。いくとすれば、そこに魅惑の好条件でも無い限り…。 その好条件とはハイム=アンゼリの建て直し。 院の外装の建て直しでもあるが、財政的なものも含まれる。尚かつこれからその貴族の家がハイム=アンゼリの今後の支援をしてくれると言うのだ。 院にはまだ多くの孤児達がそこをハイム…家として暮らしている。 破産の危機に直面している院を立て直し、多くの兄弟達を守るべくアリシアは貴族の家へ養子に行くことを決めた。 そこに自分の自由の多くが無くなるとしても。  「…実はもう荷物はまとめてあるの」 アリシアは唐突に話し出した。ツェザーリも黙って彼女の声を聞く。 「メアリって言うらしいんだけど、その貴族の子。その子の物を多く使うから、絶対必要な物意外は持っていけないみたい」 「…メアリになるのか、お前」 「うん、だからもし町中で会ってアリシアって声掛けられても振り返らないかも」 気丈な声で彼女は言う。 「…アリシア」 ツェザーリはアリシアの頬へ手を伸ばす。 そして幾度と無く彼女の名前を呼んだ。 もそ町中で会ってアリシアと声を掛けたとき、振り返らずともその名前で呼ばれていた時のことを思い出すように。 彼女の名前を呼んだ。  そして数日後、彼女は貴族の娘となるために院から姿を消した。  家族様が約束を守ってくれているのか、ツェザーリは懐かしい表情でハイム=アンゼリへ足を運んだ。
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