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自分も働くようになると、 なぜ兄が会社に馴染めないのか よくわからないと感じるようになった。 違った環境で生きてきた人達が集まる会社。 年齢もキャラクターも様々で、実に面白い。 アルバイトとは桁違いのお給料。 お化粧。お洒落なスーツ。素敵なお店。 大人の会話。仕事の達成感。 歳の近い仲間や、先輩や上司と、 仕事帰りによく飲みに行くようになった。 毎日が楽しくてしょうがなかった。 初めてのボーナスでは、自分へのご褒美で ブランド物のバックを買った。 徐々に外食が増え、あまり家では夕食を食べなくなり、寝に帰るだけの状態になった。 兄は相変わらずの生活だった。 いるんだかいないんだか。 私に対しては冷たかった。 顔を合わせることも、ほとんど無い。 私の生活の中に、兄の存在は無かった。 私は転職を繰り返しながらも、 間を空けずに働き続け、 30歳になって、結婚のために家を出た。 さすがに引っ越しのトラックで出発する時は 祖母や親と離れる寂しさで涙があふれた。 だが、結婚も長くは続かず、離婚したけれど 実家には帰らず、独り暮らしをした。 やがて今の主人と知り合い、一緒に暮らし始めて、50歳になる今までの約20年間、 実家から離れた生活をしている。 その間、やはり兄は定職に就いている様子は なかった。もはや暗黙の了解で、 私もそこには触れなくなっていた。 結婚もせず、今も実家に住み続けている。
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